部分矯正ができない例とは?判断基準について矯正歯科の認定医が解説!

部分矯正ができない例とは?判断基準について矯正歯科の認定医が解説!

「私は数本の歯が乱れているだけだから部分矯正で済ませよう」といったように、気になる歯が1〜3本程度ならば部分矯正で治せると考えている人も多いでしょう。しかし乱れた生え方をしている歯の本数が少なくても、部分矯正ではできない例はたくさんあることを知ってもらいたいのです。

基本的に矯正といえば歯列全体を動かす治療法だと考えられ、部分矯正で済ませられるケースは限られています。今回は部分矯正について詳しく掘り下げていきましょう。

部分矯正ができない例

患者さんが「部分矯正で歯列を整えたい」という希望を抱いていても、条件によってできない例があります。つまり「数本の歯だけを部分矯正で治したい」と考えても、条件をクリアしない限り部分矯正では治せません。

この項では部分矯正で対応できないケースを、例を挙げて紹介しましょう。

前歯や八重歯を並べるスペースが圧倒的に足りない

1本ずつの歯を少量ずつ削ることにより、歯を動かすスペースを生み出す方法を「IPR」(interproximal enamel reduction)と言います。歯の表面を覆っているエナメル質をわずかに削るだけなので、問題は起こりにくいです。実際には、日本人では歯の一本当たり、片側0.25mm、両側で0.5mmまでが安全だと一般的に言われていますが、上下の歯でもエナメル質の厚さは異なります。

このような処置を行うケースは、前歯や八重歯だけの部分矯正によくあります。歯のサイズに対して歯を収める土台が小さいことが原因なのですが、歯が収まりきれない度合いがひどくなると、IPRで得られるスペースでは足りなくなるため、IPRを用いた部分矯正はできなくなります。

出っ歯を後ろに引っ込めたい

「出っ歯」というのは上顎の歯列が前方へと突き出ている状態のことです。骨格の問題として上側の歯列全体が突き出ている場合と、前歯に角度がついて出っ歯になっているケースが考えられるでしょう。

どちら場合にしても、前歯を後ろに下げるためには、前歯と奥歯との関連が影響するため、部分矯正では治療することは不可能です。

前歯が閉じない歯並び(開咬)

「開咬(かいこう)」というのは、上下の歯を噛み合わせた時に前歯が閉じずに隙間ができている症状のことです。奥歯はしっかりと噛み合っている状態で、前歯が開いてしまっている症状を指します。

「前歯だけを治せば良いから部分矯正できる」と考える方もいるかも知れませんが「噛み合っている奥歯」と「開いている前歯」の両方を見なくてはならない症状なので、部分矯正で治療できるケースは少ないでしょう。

正中が合わずに左右非対称

前歯2本の間を通る、中心の縦線を「正中(せいちゅう)」と言います。この線が上側と下側で揃わない場合、患者さんが「部分矯正で歯列を整えたい」といった願望を持っていても、全体矯正することをお勧めします。

なぜならば、正中が真ん中で揃わないということはどこかにズレが生じていることが多いためです。つまり、骨格に問題があったり、噛み合わせに不具合がある場合は、部分的な矯正では対応できません。

部分矯正ができる例

今度は部分矯正できない例とは逆のケースを考えてみましょう。おそらく、部分矯正を考えたときに想像できるのは、前から3番目の犬歯より前方の歯、左右の犬歯から犬歯までの歯列だと思われます。

その基本的な条件を押さえつつ、さらに気を付けるべき点があります。どのようなものか紹介しましょう。

噛み合わせに問題がない

部分矯正では、噛み合わせの問題を改善できないことは忘れてはならないポイントです。前歯だけではどうにもならない、噛み合わせを適正なものにするためには、必ず全体矯正による治療が必要になることを覚えておきましょう。

つまり、部分矯正が適合するのはその逆のパターンを考えれば良いのです。歯の噛み合わせに異常がなければ、部分矯正で治療できる可能性が出てくるでしょう。

八重歯や前歯のスペース不足が3mm以内

歯のエナメル質をわずかに削っていき、歯を動かす余地を作り出すIPRという手法は、歯の一本当たり0.5mmのスペースを作り出すことが限界であると既に述べました。逆にそのスペース内で歯列が整うならば、部分矯正ができるかもしれません。

左右の犬歯から犬歯までで6本の歯があります。その全て歯に対してIPRを行うと、目安として矯正治療で必要とするスペースが3mm以内ならば、部分矯正でも対応できる可能性があると言えるでしょう。

軽度の不正咬合

部分矯正では噛み合わせの改善が期待できないことは重々承知しているとして、その程度が軽度の不正咬合になっている人は、その症状の軽さから、噛み合わせを考慮せずに処置できる場合があるかもしれません。

もちろん、全体矯正で噛み合わせもしっかりと改善させる方が良いと考えますが、治療に掛かる費用や期間と照らし合わせて、部分矯正も選択肢に入ってくると言えます。

しかしながら、トラブルが出ることも良くありますので、メリット・デメリットをしっかりと把握したうえで、担当の先生と良くお話されてから開始することが大切です。

部分矯正の治療について

部分矯正で治療できるかどうかは、医院での初回カウンセリングの場で医師から告げられるでしょう。

さまざまな検査やカウンセリングの結果、部分矯正で治療を進めるという方針になった場合の治療について多角的に見ていきます。

治療方法

治療方法としては、全体的な矯正治療と同様、「ワイヤー矯正」・「マウスピース矯正」があります。

複数枚のマウスピースを段階的に取り替えていき、理想的な歯列を生み出す「マウスピース矯正」は、目的とする歯は数本でも、作り自体は歯列全体を覆うようなデザインになっています。

また、金属製ワイヤーの力を歯に加えて治療する「ワイヤー矯正」は、ワイヤーの力を伝えるために「ブラケット」と呼ばれる小さな部品を矯正したい歯に接着することになるでしょう。

費用・期間

部分矯正の治療費としては、マウスピースを用いたものでおよそ46万〜73万円といった費用が掛かります。またワイヤーを用いた場合、およそ22万〜86万円の費用が掛かるでしょう。

治療期間としては、3ヶ月~1年程度で済む場合がほとんどです。全体矯正だと年単位の期間になってくるため、短期間で済ませられることを理由に部分矯正を希望する患者さんは、とても多いと言えるでしょう。

メリット・デメリット

マウスピースは透明の樹脂製で装置が目立たず、食事や歯磨きの際には外して行える点がメリットと言えるでしょう。デメリットとしては、24時間中に20時間以上装着していないと治らない、あるいは治療期間が伸びてしまう点が挙げられます。

ワイヤー矯正は現代の矯正法で最も古くからある手法なので、様々な症例に対応できる点がメリットだと言えます。デメリットとしては治療を終えるまで装置が外せないので、その間の見た目や歯磨きの苦労が考えられるでしょう。

部分矯正のよくある質問

歯列の条件としては部分矯正ができるはずなのに、医師からは「できない」と言われる例も少なくありません。患者さんとしては「どうして」といった疑問が残ってしまうことも。

部分矯正を希望する人が知っておきたいこととは、どのようなものでしょうか。

歯の神経を抜いているが部分矯正は可能?

歯は「歯槽骨」と呼ばれる骨に埋まっている状態です。歯槽骨と歯の間には「歯根膜」と呼ばれる薄い膜があるのですが、この部位が正常な状態ならば歯の神経を抜いた人でも部分矯正は可能です。

また、虫歯治療で歯に被せ物をしている場合は、それを外した上で矯正をするパターンがあるでしょう。矯正力が歯に加わった時に、被せ物にも力が伝わると不意に外れてしまう恐れがあるためです。
また、基本的には一部にインプラントの歯があっても矯正は行えますが、歯根膜がないインプラント歯は、天然の歯のように矯正治療では動かせないので医師と相談してみましょう。

部分矯正が向いている人は?

部分矯正を全体矯正と比べた場合、治療に臨むにあたっての気構えや苦労の大きさが違ってくるでしょう。掛かる費用が安く、治療期間も短い部分矯正は「気軽に」歯列矯正をしたい人に向いているのでしょう。

ただし、全体矯正を選んだ方が、イメージ通りの仕上がりになりやすいという点は覚えておきましょう。全体に比べて部分ではできることが限られてしまうため、部分矯正で治療した結果が「望んだ歯列にならなかった」となる可能性があります。

部分矯正の注意点は?

歯列矯正は「美容目的の治療」「見た目が良いならOK」と考える人もいるかもしれません。しかし、本来は噛み合わせも改善できる治療法であり、機能性の回復も期待できるのです。

ところが先に述べたように、部分矯正では噛み合わせの改善ができないので、注意が必要です。また、歯列全体を美しく整えられる全体矯正に比べ、部分矯正ではそこまで追い込めず、理想の結果とならないこともあります。

まとめ

以上、部分矯正ができない例とできる例を挙げ、治療について詳しく触れつつ、よくある質問とその答えについて紹介しました。

矯正に掛かる費用を少額に抑えられ、短期間で治療が完了することは確かに魅力的なことかも知れませんが、できない例はたくさんあることを覚えておきましょう。

当院では、部分矯正・全体矯正を問うことなく、カウンセリングの場で患者さんが自身の歯列の状態を把握できるよう、詳しく説明することを心がけています。悩み事のある方は、ぜひ一度お越しください。

                        

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